ダム作りの名人として知られるビーバーの種類と生態を、生物学の博物館学芸員である筆者が写真集形式(フリー画像)で解説します。
ビーバーってどんな動物?
河にダムを作って家族で暮らす
ビーバー(海狸)は、齧歯目ビーバー科(ビーバーか、Castoridae)に分類される構成種の総称。ビーバー属のみで本科を構成する。
ビーバーは、その頑丈な前歯を使って川沿いの木を切り倒し、大きなダムを作り、その内部を巣にして家族単位で生活する習性をもつネズミの仲間です。
ヨーロッパビーバーとアメリカビーバーの二種類がいますが、いずれも毛皮を利用するために乱獲され、野生での個体数はかなり減少しています。
ビーバーの分類と分布域
緑:アメリカビーバーの分布域
赤:ヨーロッパビーバーの分布域
ビーバーは以前は齧歯類のなかでもリスに近いと考えられていましたが、最新のゲノム解析ではリスよりもネズミに近い類縁関係があるとされています。
現生のビーバーには以下の二種があります。
アメリカビーバー
学名:Castor canadensis
英名:North American beaver
ヨーロッパビーバー
学名:Castor fiber
英名:Eurasian beaver
ビーバーのダム作り
ビーバーは人類を除く全ての動物のなかで唯一「自身の生息のために周りの環境を変える動物」として知られています。
写真のように、周囲の木を切り倒し(齧って切る)、それらを組み合わせるとともに隙間を小枝や泥で詰めてダムを作ります。
そして、そのようにしてできたダム湖の中に密閉された個室状の巣を作ります。この巣には、水上から入ることはできず、潜水して水中の出入り口から入る必要があります。
このようにして、空や陸からの天敵のアクセスをできなくして、安全な生活・出産・育児環境を作り出します。
それでは、次の項目からは現生2種と絶滅1種をご紹介します。
アメリカビーバー
アメリカビーバーは北アメリカ大陸全域に分布しているビーバー属の一種で、同属のヨーロッパビーバーよりはやや小さいものの、最大体重30kgと現生する齧歯目としては世界で三番目に大きな種類です。
※最大の齧歯目は南米に生息するカピバラ
かつては、その高密度な毛皮を目的として乱獲され、生息数が激減していましたが、現在は手厚い保護政策のもとで生息数が回復しています。
ヨーロッパビーバー
ヨーロッパビーバーはユーラシア大陸に生息するビーバー属の一種で、最大体重40kgと南米のカピバラについで世界で二番目に大きな齧歯目です。
かつてはヨーロッパのみならずユーラシア大陸に広く分布していましたが、開発と乱獲により現在の生息域は大幅に減少しています。
2021年現在でヨーロッパビーバーが生息している地域と河川は以下の通りです。
テレマルク(ノルウェー)
ローヌ川(フランス)
エルベ川(ドイツ)
ドニエプル川およびネマン川流域(ベラルーシ・ウクライナ・ロシア)
ヴォロネジ川(ロシア)
コンダ川(ロシア)
エニセイ川(ロシア)
アザス川(ロシア)
ブルガン川(モンゴル)
Castor californicus(絶滅種)
Castor californicusは中新世末期から更新世初期にかけて北アメリカ大陸西部に生息していたビーバーの一種で、現生ビーバーよりも一回り大きかったと推測されています。
ヤマビーバー(番外編)
ヤマビーバーは北アメリカ大陸中西部に分布しているリスに近い齧歯目(ヤマビーバー科)です。
外見がビーバーに似ており、よく泳ぐことから「マウンテン・ビーバー」と呼ばれますが類縁関係はありません。
体重1.5kgほどの小型種で、湿度の高い針葉樹林の地面に巣穴を掘り、植物の茎・根・芽・葉などを食べて暮らしています。